東欧マニアックガイド

これまで訪れた東欧圏のちょっとマニアックな場所を紹介しています。

老修道士が孤独に修行する、小さな村の岩窟修道院【ブトゥチェニ/モルドバ】

これまでも当ブログでは、モルドバのデコラティブな修道院や、首都キシナウのやたらと広い軍事博物館を紹介してきた。

しかし、やはり、何と言っても。

モルドバで一番有名な観光スポットはここだろう。

そう、岩窟修道院である。

 

キシナウから50kmほど離れた辺鄙な村のその修道院は、名前の通り、岩窟の中にあるのだ。

しかも、そこでは老いた修道士がたった一人で修行しているらしい。

興味を惹かれたわたしは、沿ドニエストル共和国に並んで絶対にチェックしたい場所として、モルドバ旅行の日程に岩窟修道院を組み込んだ。

 

9月上旬、まだまだ夏の気配がふんだんに立ち込め、朝から割と容赦なく暑いモルドバ

そんな中、キシナウの中央バスターミナルで「Butuceni(ブトゥチェニ)」行きのチケットを購入した。

岩窟修道院がある地域は「オールド・オルヘイ(Old Orhei)」、現地語では「オルヘイ・ベキ(Orheiul Vechi)」などとも呼ばれるのだが、実際にこの修道院があるのは、「ブトゥチェニ」という村の近くである。

なので、岩窟修道院へ行くには、「ブトゥチェニ」行きのチケットを買えば良いと事前に調べていた。

 

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が!この「ブトゥチェニ」行きチケットの売り場が分かりづらい。

なんせ、メインのチケット売り場から離れた場所にあるのでなかなか見つからなかったのだ。

しかし、他の売り場の女性がわざわざ仕事中断して案内してくれたおかげで、無事にチケットを買うことに成功。

旧共産圏の公共交通機関のチケット売り場でこんな優しい待遇に出くわすとは……

案内してくれた女性が女神に見えた……

 

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お目当てのバスは、チケット売り場の前の道路に停まっていた。

ドライバーが行先の名前を連呼していたので、すぐにわかった。

バスに揺られて1時間ほどすると、それっぽい景色が近づいてくる。

 

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モルドバには高い山はない。

その代わり、こういった具合のなだらかな丘のようなものがあちこちで見られる。

 

バスは無事に終点のブトゥチェニに到着した。

わたしの他にはもう1人観光客らしい白人女性がここで降りた。

が、バスを降りたはいいものの、辺りを見回しても修道院らしき建物は見当たらない。

あ、あそこにインフォメーションマークがついた建物があるぞ。

 

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と思って近づいたが、この有様。

中には全く人気もなく、トイレの看板も外れてぶらさがった状態。

 

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とりあえず歩くことにした。

 

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人っ子一人歩いていない静かな村。

 

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小さなお店の前で第一村人発見。

 

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家の壁のレリーフのようなものが可愛い。

 

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村の家々の門も独特。

 

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誰の顔だろう。

 

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現役っぽい井戸もある。

話が脱線するが、以前ウクライナの村の物件を紹介する動画をYouTubeで観た。

その家には水道が引かれていないものの、近くにある共同の井戸を使えば水道代は万年0円だとか。

しかし、いちいち水を汲みにいくのは大変だし、冬場は凍ってしまって水も汲めないので、かなりハードモードな生活だろうなぁ。

あと、ピロリ菌も気になるし。

そんなことを、この井戸の写真を見て思い出した、というどうでもいい話。

 

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しばらく歩いていると、修道院を発見。

しかし、お目当ての岩窟修道院ではなかった上、外は工事中。

 

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金ぴかでカラフル、豪華絢爛な内部。

 

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修道院の外では数人が煉瓦を積んだり、セメントを混ぜたりと、せっせと仕事をしていた。

 

それにしても、一体どこに岩窟修道院があるのだろう。

見渡してもそれらしき建物も見当たらなければ、看板なども出ていない。

とりあえず、新しい小道を探してそちらへ向かって歩くことにした。

 

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すると、地下へと続く階段が現れた。

あまりにも地味というか、ひっそりとしている。

看板も何も出ていないので、まさかこれが岩窟修道院とは思わなかったのだが……

 

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ひんやりとした空気に包まれた階段を降りると……(とか言って、降りた後に中から撮った写真だけど)

 

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あった。

ここだ、岩窟修道院だ。

岩の中にはこぢんまりとした慎ましやかな世界が広がっていた。

 

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修道院というよりも、なんだろう……誰かのおうちの豪華な祭壇といった雰囲気。

この修道院の起源は、13世紀にまでさかのぼる。

13世紀に正教会の修道士によって作られたもので、18世紀まで修道士がここで暮らしていた。

第二次世界大戦後、共産主義時代にこの教会はソ連の手により閉鎖されていたが、1996年にまた修道士が戻り、命を吹き返した(?)そうだ。

 

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無料で入れるが、マグネットなどのちょっとしたお土産が買えるようになっているので、入場料代わりにマグネットを購入した。

写真には写っていないが、老修道士に声をかけて売ってもらった。

噂に聞いていた通り、その老いた修道士は、開け放たれた絶壁側の出入り口近くでずっと聖書らしきものを読んでいた。

誰かが入ってきても気にすることなく、彼は終始お勤めに没頭していた。

 

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これが絶壁側の出入口。

出る時は気を付けた方が良い。

柵も何も無いので、勢いよく飛び出ると容赦なくそのまま下に落ちる。

 

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さて、絶壁側に出てみた。

ひたすらのどかな景色が広がっている。

 

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崖の下には牛。

 

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高所恐怖症なのに張り切ってしまった。

それにしても、なんて長閑な景色なのだろうか。

天気も良くて風もなく(暑いけど)、平和というものを具現化したような景色。

本を何冊か携えて、あえてネットに触れない状態で、ここら辺に1週間くらい滞在したいな~。

 

さて、ひとしきり修道院を見学したが、ずいぶん時間が余ってしまった。

先に紹介した通り、修道院のまわりには特に何もないので、次のバスがこの村に来るまではあと数時間。

だが、この隣のトレブジェニ(Trebujeni)という村からもバスが出ている。

そこで、その村まで歩くことにした。

 

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修道院の遠景。

 

ところで、結局、わたしはバスではなく、車でキシナウに帰ることになった。

というのも、ブトゥチェニで同じバスから下車した白人女性(スイス人の医学生だった)から村で声をかけられ、修道院を一緒に見学する流れになったのだ。

彼女とトレブジェニまで歩こうとしたのだが、「もう暑くて無理。ヒッチハイクしよう」と言い始めたのである。

北関東の猛暑地からやってきたわたしはへっちゃらだったのだが、寒冷なスイスから来たら南東ヨーロッパの暑さはこたえるんだろうな。

というわけで、1人でヒッチハイクは怖いけど、デカくて強そうな女性と一緒なら大丈夫かなとヒッチハイクを試みたところ、すぐに停まってくれた車に乗っていたのが、アメリカ人とスペイン人の観光客。

彼らも旅行中に知り合ったらしい。

「別の修道院にも行くんだけどあなたたちも行く?」ということで、せっかくなので連れて行ってもらったのが、こちらのデコラティブな修道院である。

 

maniaceasterneurope.hatenablog.com

ネイティブ英語話者と、超流暢な英語を話すスイス人と、少し訛ってはいるけどかなり英語のうまいスペイン人に囲まれ、わたしは本当に困ってしまい、旅の後半は頑張って会話に入ろうとするのに疲れて2時間くらいだんまりを決め込んでしまった苦い思い出が蘇る。

 

【行き方】
キシナウの中央バスターミナルから1日に数本バスが出ている。記事にもある通り「Butuceni(ブトゥチェニ)」行きのチケットを買おう。もしくは、隣村の「Trebujeni(トレブジェニ)」行きのバス。修道院にすぐ辿り着きたい人は、丘の上の道を歩いていくと修道院に出るらしい。わたしは帰ってきてから知った。

【ウェブサイト】

 http://www.visit.md/tour/stary-j-orhej/

【場所】

Butuceny, モルドバ

(最終訪問:2018年09月)