未承認国家の日常風景(前編)【ティラスポリ/沿ドニエストル共和国】
わたしは今まで、国際的に国家として承認されている国にしか住んだことがない。
それまで訪れた国も、きちんと国家として認められた場所ばかりだった。
承認されていない国とは一体どんな様子で、どんな人が暮らしているのだろう。
誰もが一度は思うのではないだろうか。知らんけど。
そんなこんなで、なんとなく未承認国家の存在を意識し始めて数年たった時、モルドバにある未承認国家・沿ドニエストル共和国に訪れる機会がやってきた。
沿ドニエストル共和国は、ソ連がルーマニアからモルドバ地域を奪還するために、1924年にウクライナ領に作られたモルダビア自治共和国が礎になっている。
1990年9月に、沿ドニエストル共和国として独立を宣言した。
独自の通貨や政治体制を有しているものの、国際的には国家として承認されていない未承認国家だ。
世界的にはモルドバの一部とされており、この国を国家として承認しているのは、アブハジア、ナゴルノ・カラバフ共和国、南オセチアの3か国。
そしてこの3か国も国家として世界的に承認されていない未承認国家である(笑)
そんな沿ドニエストル共和国にはロシア人も多く住んでいて、親露どころかソ連回帰を願う人がいるとか……
気にならないわけがない。
というわけで、2018年9月。
このバスに乗ってキシナウから沿ドニエストル共和国の主都とされるティラスポリへやってきた。
9月初旬のモルドバはとても暑かった。
ぎゅうぎゅう詰めの狭い車内は、むせかえるような体臭で満ちており、窓も開けられず割と地獄だった。
隣の男性の体臭がキツすぎて、もうそろそろ我慢も限界だと思われる頃、ようやくバスは鉄道駅に到着。
とりあえず、駅から街の中心地まで歩く。
キシナウに比べて、通りが閑散としていて、不思議な雰囲気。
だが、治安の悪さは特に感じない。
未承認国家のなんとなく怖くて危ないイメージが、到着早々ガラガラと崩れ去る。
そこには、他の国と変わらない人々の暮らしがあるように見えた。
こちらは、おそらくティラスポリに来た人が最初に目にするであろう観光スポット(?)。
大小の鈴がついた正教会の門というかモニュメントのようなもの。
教会の本堂はこちら。
だが、改装中なのだろうか。
中には入れなかった。
教会の隣には荒れ果てた資材置き場。
教会の周りもちょっとした公園のようになっているが、草が生い茂っていた。
蛇とか出てきそう。
公園の向かいには、一見立派だけど廃墟のような建物。
とりあえず、公園を抜けて、街の中心と思われる方面に歩いていく。
何も知らずに撮ったが、老舗ワイナリーの店舗だったようだ。
今度行ったら何か買ってみよう。
大通りに出る。
車線の無い広々とした車道が旧共産圏っぽい。
少し危険な香りの漂うインパクトのある建物。
本当はもっと近くに寄ってじっくり見たかったのだが、失礼な気がしたので一瞬で写真を撮って足早に去った。
手前の薄緑の建物は何かの機関だろうか。
バックにそびえたつ集合住宅がカッコいい。
この街のメインストリートである「10月25日通り」に出た。
堂々たる建物は市庁舎。
さすが沿ドニエストル共和国、レーニン像が今なお普通に設置されている。
淡いイエローの集合住宅。
モコモコと出っ張った窓のデザインが面白い。
明るい水色と白の組み合わせがとても爽やか。
沿ドニエストル共和国内で展開されているスーパーチェーン「Шериф (SHERIFF)」。
この店舗は、二階にレストランが入っていたので、そこで昼食をとった。
ファミレスのようなカジュアルなレストランだ。
若い女性店員さんが、機転を利かせて英語で対応してくれる。
わたし並みに英語に話し慣れてないのか、「えーっと……なんて言うんだっけ」と度々困っていたのが可愛らしく、好感度が爆上がり。
野菜のグリルも素朴な味で美味しい。
日本円に換算すると、トータルで1,200円ほどだった。
そこまで安いわけではない。
お姉さんがとても良く対応してくれて癒されたので、チップも払って店を出た。
昼食を終えたら、再び街中探索へ。
他の国となんら変わりない日常の景色に、なんだかほっとする。
レトロなトロリーバス。
古めかしい雰囲気の映画館。
そこらじゅうで赤と緑の沿ドニカラーを見かける。
なお、この辺りで、外国人旅行者らしき人を見かけた。
行きのバスにも、ドイツ語を話すグループが乗っていたので、観光客はそれなりに頻繁に来るのだろう。
I♡ティラスポリのモニュメント。
さすがにこの前で一人でセルフィ―を撮る勇気はなかった。
さらに先に進むと、ティラスポリを建設したロシア帝国の軍人アレクサンドル・スヴォーロフの像が建っていた。
さて、街をひと通り歩いてみて、驚くほど平和なことに気付く。
そして、人が穏やかで親切なのだ。
沿ドニエストル共和国に入国する際も、わたしがロシア語で挨拶をしたら窓口のお姉さんはにこやかに対応してくれた。
銀行で両替をした時も、旧共産圏あるあるな不愛想な対応を覚悟していたのだが、拍子抜けするくらいに優しく対応してくれた。
唯一、駅で両替しようとしたら、おばさんに怒鳴られたが(いまだに原因不明)。
なんとなく、「今は両替できない」みたいなニュアンスだった気がするが、わたしがロシア語が分からないばかりにおばさんの言うこともろくに分からず、おばさんもカチンと来たのだろう。
それはさておき。
はて、なんなんだ、このやたらと居心地の良い国は。
張り詰めていた気を少しだけ緩めて、わたしは散策を続けた。
後編に続く。
maniaceasterneurope.hatenablog.com
【行き方】
モルドバの首都キシナウの中央バスターミナルからティラスポリ行きのミニバスが出ている。2018年9月当時は片道36.5MDL(約240円)だった。途中の国境での検査を含め、2時間弱でティラスポリに到着。国境での検査は、パスポートを見せて、どこに行くのか、どのくらい滞在するのかを伝えるだけ。その際に小さな紙をもらうのだが、この紙は出国時にも必要なので大切に保管しておこう。この辺りの手続きは突然変わることもあると思うので、訪れる際には最新情報をチェックしてください。
【場所】
Tiraspol, モルドバ
(最終訪問:2018年9月)